異世界に行けなかった俺の半生。第7話【再生編・後編】 リハビリと人生の練習、動く手、動かない心。

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― 動かない手を見つめながら、もう一度生き直そうと思った ―
異世界に行けなかった俺の半生。第6話【再生編・前編】動かない手、折れた心

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あの事故から、気づけばもう数年が経っていた。

たまに親と喧嘩しながらも、仕事もせず、実家でぬくぬくと過ごす毎日。
金も無いから、友達と遊ぶこともなくなった。

包丁も、バイクも。
遊ぶ金ほしさに、全部売った。

毎日のリハビリの効果か、動かなかった手の感覚は奇跡的に8割ほど戻っていた。

折り紙を折り、ミサンガを編み、米粒を器から器へ箸で移す。
何百回も、いや何千回も――ただ、ひたすらに指を動かした結果だ。

……ただ、残りの2割が絶望的だった。

まるで指先だけ時間が止まっているように、自分の指なのに他人のものみたいなんだ。
冷たい、温かい、痛い――それはわかる。
なのに、触れている“感触”だけがどこか遠い。

常に手袋をはめているような、モヤモヤした違和感がいつまでも消えなかった。
そしてその違和感は、今もなお続いている。

細かい動作はことごとく失敗する。
コップは落とす。携帯は滑る。茶碗は割る。

料理なんて論外。
桂むき?キャベツの千切り?魚のすき引き?――そんなの、夢のまた夢だ。

それでも、「何か仕事をしなきゃ」と、焦りだけが先に走った。


とはいえ、俺の履歴書には輝かしい経歴なんて一つもない。
高校中退。
元料理人(リタイア済み)。
英語は忘却済み。
ニート歴数年、現在も無職。

……ね、誰が雇うの、こんなやつ。

「そうだ、事務職にしよう!」

なぜそう思ったのか、今でも謎だ。
そもそも俺、パソコンが使えねえ。


そんなわけで、母に泣きついた。

「事務の仕事探すから、パソコン買ってくれ!」

……とか言いつつ、買ってもらった瞬間にニート化が加速。

届いたのは、SONYのVAIO XR7Z/BP(OSはWindows Me)
懐かしすぎて泣ける。


テレホタイムにインターネット接続したその日から、
俺の人生は変な方向に転がり出した。

仕事探し? ソウイエバしてないネ

代わりに、毎日2ちゃんねるYahoo!チャットに入り浸り。
明け方までクソスレを立てたり、酒を飲みながら見知らぬ誰かとしょうもない話をしていた。

……たまに思った。
「俺の人生って、もう終わってるんじゃね?」

そう感じる夜が、一番怖かった。
プレッシャーに押しつぶされそうになった。


「何か学ばなきゃ」

そう思い立って、今度はウェブ制作を始めた。
母にねだって買ってもらったのは、ウェブ制作ソフトDreamWeaver
ホームページビルダーじゃないのは、2ちゃんねらーのこだわりだ。
仕上がりのHTMLソースが違う(と言われていた)

W3C? CSS? JavaScript? Flash? 意味不明。
だけど、夢中になってウェブサイトを作った。

できあがったのは――飼い猫の写真が入ったくそダサい猫サイト。
アクセスゼロ(自分のアクセス50/日)。

もちろん、すぐに飽きた。


次は流行り始めていたブログ
2000年代の第一次ブログブーム。
でもネタがない。俺、ニートだし。

結果:クソつまらない記事を3つ書いて挫折。


次に目をつけたのは、自宅サーバー構築。

「母さん、仕事を決めるのに今度はデスクトップが必要なんだ!」

またしても泣き落としに成功。
買ってもらったのはVAIO RX55

Vine Linuxを入れてApacheを動かし、MovableTypeで自鯖ブログを運営。
PearlにPHPだってお手のもの。
SENDMAILで簡易メールサーバー構築。

自宅サーバー構築に関してのブログ記事はちょっと好評だった。

俺、何者?
気分はもう天才ハッカー(ただの暇人ニート)だった。


そろそろマジで働こう。

それなりにPCスキルもついたし、
「俺って事務職として完璧じゃね?」と思ってた。

……が、壮絶な勘違い。

事務職に必要なのは、サーバー構築でもHTMLでもネットワーク知識でもなく、

WordとExcelの経験だった。

これには打ちのめされた。

でも、俺はやると決めたらやる男だ。

派遣会社に「事務員」として登録。
そして、ついに電話が鳴った。

「事務のお仕事、見つかりました!」

「ようやく社会復帰ロードが始まった」
そう思ってた。
……でも、現実は“社会”が俺を甘く迎えてくれるほど、やさしくなかった。

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🔜 次回予告

ようやく“社会復帰ロード”に足を踏み入れた俺。
だが、現実は甘くなかった。
初めての事務職、右も左もわからない職場、動かない手。

それでも、必死に働いた。
――次回、第8話【社会復帰編】

異世界に行けなかった俺の半生。シリーズ

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スピンオフ作品

atch-k | あっちけい
Visual Storyteller/Visual Literature
光は、言葉より静かに語る。

物流業界で国際コンテナ船の輸出事務を担当。
現場とオフィスの狭間で働きながら、
「記録すること」と「伝えること」の境界を見つめ続けてきました。

現在は、体験を物語として届ける“物語SEO”を提唱・実践。
レビュー記事を単なる紹介ではなく、
感情と構成で読ませるノンフィクションとして再構築しています。

一方で、写真と言葉を融合させた「写真詩」シリーズを日々発表。
光・風・静寂をテーマにした作品群は、
#写真詩 #VisualStorytelling タグを中心に多くの共鳴を生んでいます。

長編ノンフィクション『異世界に行けなかった俺の半生。』は14話完結。
家庭崩壊・挫折・再起を描いた実話として、
多くの読者から支持をいただきました。


あっちけい|Visual Literature / 物語SEO創始
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