異世界に行けなかった俺の半生。【仮病編】社会人失格、人間合格。

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──前夜の段取り

実は前日から、段取りはできていた。

確かに体調は悪い。
でも、仕事を休むほどじゃない。

なのに、
どこかで小さな悪魔が囁いた。

――たまにはさ、少しくらい、休んでもいいんじゃねえの。

咳き込みながら、さりげなく“体調不良のアピール”を始める。
コソコソと翌日の仕事を片付け、ふわっと引き継ぎも済ませた。

帰り際、自分に言い訳するように、
「明日もし熱が出たら、休むしかないよな。
 みんなに迷惑かけるわけにもいかないもんな」と、
周囲に聞こえるくらいの声でつぶやく。

夜、寝る前。
同僚にラインを送った。

「やっぱり微熱出てるわ。明日の朝また連絡する。下がらなかったら休むかも。」

事前の根回しは、完璧だった。

仮病の朝

4時半。
アラームが鳴ると同時に、体温計を脇に挟む。

表示された数字は、36.5度。

その瞬間、心の中で安西先生が囁いた。

「人間、諦めたらそこで試合終了だよ。」

俺は諦めなかった。

4時40分。
同僚にラインを送る。

「やっぱり熱上がったわ。
でもインフルとかじゃないっぽい。
一応病院行ってくるよ。
うつしたら悪いし。」

他人のためを装った、完璧な言い訳。

嘘は言っていない。
前日の36.2度から36.5度に、
0.3度も熱が上がっている。

5時。
既読がつかない。
少しだけ焦る。

5時半。
ようやく返信が来た。

「了解。伝えておくよ。お大事に。」

その瞬間、
体調がみるみる回復していくのがわかった。

まるで、
病気の正体が“罪悪感”だったみたいに。

サボリの午前

妻に、「体調悪いから休むわ」と伝える。
少しだけ、罪悪感を添えて。

返ってきたのは短い一言。
「無理しないでね。」

優しさが俺の心に突き刺さる。
人は、自分がズルをしてるときほど、他人の優しさに弱い。
いや、嘘つくなよ。おい。

布団の中で、ノートパソコンを開いた。
Lightroomを立ち上げて、撮り溜めた写真を現像し始める。

専用プリセット“あっちけいブルー”を、いつもより少し強めに。
病人(仮)のくせに、空気感のトーンにはこだわる。

作業が終わる頃には、体調はほぼ全快。
いや、元々大して悪くなかった。

罪悪感が消えたぶん、出来上がった写真の色も澄んで見えた。

Xを開き、朝のポストを整える。
「最近、ちょっとポエミーすぎるな」と思い、
人間味を出すために、アホポストを考え始めた。

そうして生まれたのが、
“仮病ポスト”だった。

静かな自由

罪悪感よりも、
布団のぬくもりのほうが正直だった。

外は晴れている。
カーテンの隙間から差し込む光が、
まるで「働いたら負けだ」と言っているようだった。

異世界には行けなかった俺でも、
現実から少し逃げるくらいの自由(有給休暇)はある。

社会人としては失格かもしれない。
でも、人間としては──
ちょっと、勝った気がした。

スマホの通知音が鳴る。
Xのポストにいいねがひとつ。

少し考える。
今の俺、大人としてどうなんだ。
この姿を、子どもたちに胸を張って見せられるのか。

その瞬間、
あの悪魔がまた囁いた。

――「別にいいんじゃね?」

採用。

世界が少しやさしく見えた。

――反省はしていない。

本編はコチラ👇
異世界に行けなかった俺の半生。

atch-k | あっちけい
Visual Storyteller/Visual Literature
光は、言葉より静かに語る。

物流業界で国際コンテナ船の輸出事務を担当。
現場とオフィスの狭間で働きながら、
「記録すること」と「伝えること」の境界を見つめ続けてきました。

現在は、体験を物語として届ける“物語SEO”を提唱・実践。
レビュー記事を単なる紹介ではなく、
感情と構成で読ませるノンフィクションとして再構築しています。

一方で、写真と言葉を融合させた「写真詩」シリーズを日々発表。
光・風・静寂をテーマにした作品群は、
#写真詩 #VisualStorytelling タグを中心に多くの共鳴を生んでいます。

長編ノンフィクション『異世界に行けなかった俺の半生。』は14話完結。
家庭崩壊・挫折・再起を描いた実話として、
多くの読者から支持をいただきました。


あっちけい|Visual Literature / 物語SEO創始
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