
紫の鞄を持って出かけた妻を見送った朝。
SNSを何気なく眺めていたら「今日はセプテンバーバレンタイン」とかいう投稿を発見。
セプテンバーバレンタインってなんだよ。
……え?9月14日は「別れを切り出す日」?
しかも紫のアイテムが別れのサイン?
いやいやいや、まさか。
でも妻は紫の鞄を持って出かけたよな……。
もし本当に捨てられたらどうなる?
一人暮らし時代みたいに洗濯も掃除も全部自分でやらなきゃいけない。
子供は多感な高校生。
父親を見限って不良になったらどうしよう。
最悪の場合、子供も妻に連れて行かれ、残されたのは一軒家に俺一人。
同居人は、例の「お猪口の幽霊」だけになるじゃねえか。(※過去のエッセイ参照)
熟年離婚は、孤独死まっしぐら。
数年後、変わり果てた姿で発見される俺。
やばい、やばすぎる!

金目鯛。
そうだ金目鯛の煮付けだ。
元料理人が腕によりをかけて作った「金目鯛の煮付け」。
これを食べさせれば、妻もきっと喜んでくれるはずだ。
善は急げ!
早速近所のスーパーで探索。
すぐに金目鯛を見つけることが出来たが結構高い。
しかしここはブログ収入で賄うのだ。
VIVAブロガー!
家に帰るとすぐに調理を開始。
水洗い(鱗取り、エラ外し、内臓外し、血合掃除)。
霜降り(熱湯で軽く火を入れてから、氷水に落として魚の臭みを消す)。
――元料理人の血が騒ぐ。
気づけば包丁の動きは現役時代さながら。
台所はまるで修羅場のように水しぶきが飛んでいる。
今、俺の後ろを誰かが通ったら、きっと怒鳴りつけることだろう。
「包丁持った人間の後ろを通るんじゃねえ!!」
さあ煮付け開始だ。
酒と砂糖、味醂で薄めに下味をつける。
ここで味を決めてしまうと、最終的に煮詰まって「味が濃く」なってしまう。
コトコト、コトコト。
上身にもしっかり味が入るよう、落とし蓋代わりのアルミホイルを乗せる。
煮汁の泡が変わったその瞬間。
ここだ!!
煮汁の味を確かめてから、醤油を足して味を決める。
たまり醤油が無いのが悔しいが、仕方ない。
金目鯛のような淡白な魚は、サラッと薄めの味でいい。
できた…。
これなら妻もきっと喜んでくれるだろう。
長ネギの薄皮を外し、白髪ネギを作りながら悦に浸る。
「ただいまー」
いいタイミングで妻が帰ってきた。
「なんかいい匂いするねー」
早速気付いたようだ。
「たまにはと思ってさ、金目鯛の煮付け作った」
俺がそう言った瞬間、妻が一言。
「また内緒でなんか高けえもん買っただろ。お前」
「!?」
何がバレた??カメラか?レンズか?MacBook Airか?大容量のSDカードか?カーボン三脚か?
それとも車中泊用に買ったカーテンか?ベッドか?ロール式サンシェードか?
なんだ???何がバレたんだ?????
まさに因果応報。
自業自得。
身から出た錆。
結局、別れのサインは紫や白のアイテムじゃなく「家計簿」に書かれているんだよな。
セプテンバーバレンタイン、勉強になったね!
それじゃ!あっちけいでした!

